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大阪高等裁判所 昭和44年(行コ)31号 判決 1971年11月11日

控訴人

大阪府国民健康保険審査会

右代表者

桜田誉

右指定代理人

下村浩蔵

外三名

右代理人弁護士

浜本一夫

被控訴人

大阪市

右代表者

中馬馨

右指定代理人

平敷亮一

外四名

主文

一、原判決を取消す。

二、被控訴人の訴を却下する。

三、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

被控訴人が国民健康保険法に基づく国民健康保険事業を行なう者であり、昭和三七年八月七日以来右保険の被保険者であつた訴外上林貞夫が、昭和三八年五月六日以降は大阪市内に住所を有していなかつたと認めて、同日以降の同人の被保険者資格を認めなかつたところ、同人がこれを不服として、同年九月二一日控訴人に対し審査請求をしたのに対し、控訴人は同年一二月二〇日付を以て、右訴外人が昭和三八年五月五日以降も大阪市内に住所を有していたとし、控訴人が右保険による療養給付を行なうべき旨の裁決をなし、この裁決書が昭和三九年一月二九日被控訴人にも送達されたことは当事者間に争がなく、被控訴人は、右控訴人の裁決が違法であるとして、控訴人を相手方として右裁決の取消を求めるために本訴を提起したものであることは、被控訴人の主張自体により明白である。

よつて、本訴を不適法とする控訴人の本案前の抗弁につき判断する。先ず、本訴が被控訴人主張のような抗告訴訟の一種であるか、控訴人主張の機関訴訟に属するかの点について検討するに、右訴外人の不服申立は国民健康保険法第九一条に基づく審査請求と認むべきところ、この審査手続及びその効力については、同法のほか、行政不服審査法が適用されること、保険給付に関する原処分の取消の訴が、右審査請求の裁決を経た後には提起できることは、国民健康保険法第一〇二条、第一〇三条の規定により明らかであるが、同法第九一条に掲げる「処分に不服がある者」というのは、原処分からの救済を必要とする者、即ち原処分により自己の権利を侵害されたとする被保険者等一般私人を指称し、原処分を為した者自身を含むものでないことは明白で、従つて、右の第二次救済として設けられた同法第一〇三条の行政訴訟に依る救済も、右同様、原処分に対する救済を必要とする者のために設けられたものと見るべく、右不服審査の裁決自体のために何等かの権利を害せられたとする原処分者自身の救済は、少くとも文理上、直接には同法第一〇三条の関知しないところであると考えることができる。他方、行政不服審査法は、その第四三条第一項において、「裁決は関係行政庁を拘束する」旨を明規し、右文言の意図するところは、行政内部において、ある意思がすでに批判、修正された場合に、それ以前の元の意思について行政外部に対する独立の存在、行動を許さない点にあるものと見られるから、同条項趣旨は、他に特段の根拠があれば格別、さもなければ、裁決の相手方となつた行政庁は、訴訟その他如何なる手段に依るとを問わず、右裁決そのものを争うことができないことを意味するものと解するを相当とする。以上の文理解釈に加えて、行政不服審査の制度が、行政権が行政監督的方法を以て、広義の行政機関内部の意思を統制する目的に奉仕する手段として設けられたものであつて、このことは、審査庁がいわゆる第三者機関であると否とに拘らず、審査の対決そのものを争うことができないとを意味するものと解するを相当する。以上の文理解釈に加えて、行政不服審査の制度が、行政権が行政監督的方法を以て、広義の行政機関内部の意思を統制する目的に奉仕する手段として設けられたものであつて、このことは、審査庁がいわゆる第三者機関であると否とに拘らず、審査の対象たる原処分を行つた者より、別に右審査に対する抗争手段を認めることは、右行政上の統制を破る自壊作用を肯定することに外ならないこと、裁決に際しては、行政裁量的棄却の道が与えられていること(行政不服審査法第四〇条第六項)、審査庁は通常いわゆる準司法機関と称せられるが、右の性格はそれ自体の構成やその取扱う手続の面での性質以上に多く出るものではなく、これに関与する当事者をも、司法裁判の当事者と全く同一に取扱い、その前審関与者としての地位を保障するまでの性格のものとは見難いこと等の諸点を考慮に入れるときは、本件審査裁決自体の効力を争うことを目的とする被控訴人の本訴は、右審査手続上の下級庁が上細庁に対し、てこれを為す機関訴訟の性質を脱却することはできないものと認めない訳にはゆかない。被控訴人が、本訴を以て、その抗告訴訟的性質であることを理由づけるところの被控訴人の保険者としての立場で、権利主体として経済的利害を有するとの点についても、それが行政主体としての被控訴人の利害に帰一するものである以上、同じ被控訴人より、本件裁決に対して、行政処分そのものとしての効力抗争を容認する根拠としては未だ足りないものといわざるを得ない。被控訴人は、行政機関は終審たり得ないことをもその主張の根拠とするけれども、その意味の保護はあくまでも私人としての国民に対するものであつて、地方公共団体である被控訴人が行政庁の立場を失わない以上は、行政庁としての規制の下に、その権利義務が認められなければならないことも自明の理であつて、軽々に前記の原則を援用することはできない。また所論の憲法第九二条違反の問題を生ずるものとも解されない。

これを要するに、本件訴訟は控訴人の主張する機関訴訟の域を脱せず、これから離れた被控訴人主張の抗告訴訟としての独自の性格はこれを認めるに由がないから、本訴につき、被控訴人がその出訴についての如何なる利益を有するかの点を審査するまでもなく、不適法たるを免れない。

そうすると、被控訴人の請求を認容した原判決は失当であるから、これを取消し、本訴を却下すべきものとし、訴訟費用につき民事訴訟法第九六条第八九条を適用して、主文の通り判決する。

(宮川種一郎 林繁 平田浩)

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